白老町ポロト湖の森と野鳥 中 野 嘉 陽 1 ポロト、すばらしき環境 ポロト:アイヌ語で大きい沼という意味だそうです。 どっしりと構えいつも物静かで、天然の森とともに多くの生き物たちの生命を育む母なる地です。周囲は約4km、面積は33haです。 昭和53年、湖を含め周囲一帯401haが林野庁から「ポロト自然休養林」に指定されています。 平成14年、日本の自然・文化・歴史遺産を再発見しようというねらいで実施された「遊歩百選」に選ばれ、知名度が一段と上がりました。外周6kmの散策路がほどよく整備されています。また、足に自信がある方には奥に向かって樽前山や遠く羊蹄山の眺望も楽しめる遊歩道があります。 ポロト湖は清流ウツナイ川から始まり、ポロト湿原やヨコスト湿原、ポント沼(小さい沼)など大小様々な水環境が連なっています。 2 ポロト「わたしの出会った野鳥」 苫小牧の佐藤辰夫氏を初めとする専門家の調査によるとポロトには140種の野鳥が確認されています。(本誌"北海道野鳥だより"第68号参照) 私は記録も正確に取っていませんでしたので,「わたしの出会った野鳥」ということでまとめてみました。 ☆沼の鳥 ☆川の鳥 湿原の鳥 ☆森の鳥 ☆ 町との隣接地 3 ポロトを代表する野鳥たち ゴールデンウイークの話題で楽しい会話が弾むころ,森の奥から渡って来て間もないツツドリが演奏を始めます。ポポポポポ ポンポンポンポン・・・リズミカルな音が湖水を伝わります。 カッコウ科の2着はカッコウ。5月下旬,種まき鳥がやってくると狭いながらも菜園作りに忙しさが加わります。 例年,初鳴きを記録している人によると, ザゼンソウを探しながら湿原を歩いていると,ウグイスのけたたましい警戒の声,近づき過ぎ?ごめんなさいと謝っているとカッコウがバタバタと飛び立ちました。托卵をめぐるトラブルがあったのでしょう。「卵を産もうとしていたところを見つけられてあわてて飛び出した」というのはあくまでも想像ですが。 初夏の声とともにやってくるのはホトトギスでしょう。私自身は姿を見たことはありませんが,トッキョキョカキョク(特許許可局)の声が辺りが静かな夜中から早朝にかけて森に響きます。ホトトギスはこちらの方ではこれまでにほとんど報告はないようですが,聞くところによると同じ時期に伊達・虻田や室蘭・登別方面でもよく声が聞かれるようです。もしかしたらポロトの森の小鳥に托卵しているのかもしれません。何とか確認したいものです。 ジュウイチは本当に「ジュウイチー」と鳴き,かわいい感じがします。姿を現しませんが声は聞こえます。 (2)夏の宝石 カワセミ 近所に住んでいる方の庭にはポント沼の水が流れるようになっていて,天然の淡水魚が豊富です。「家の中からカワセミが見られて,最高の幸せです」と言います。 湖にはコイ,フナ,ワカサギ,ウグイ,アメマス,ヒメマス,ニジマスなど多くの魚が生息しています。ワカサギは白老漁業協同組合で卵の放流を行っており,冬期間は4,000人もの釣り人でにぎわいます。町史をひもとくと,「大正初期から漁獲量の減少による漁業不振のばん回を図るため白老村のいたるところにある天然の沼と河川を利用しての養魚事業を推進した」とあります。豊かな淡水魚はそのころの名残かもしれません。 1月11日,自然が大好きな知人がウツナイ川でカワセミを見つけて撮影してくれました。冬期間も渡らずここに残って輝く美しさを見せてくれた事に感謝しました。 ポロトには湖面に大きく張り出したミズナラの巨木やハンノキがたくさんあり,ヤマセミも狩場として利用しています。 (3)落葉の森はキツツキ科 湿原には枯木が多いため,虫の種類が多くキツツキにとっては冬の食料貯蔵庫です。 木をつつく音がリズミカルに響きます。静かな森にこだまするドラミングは体内にしこっている「雑音」を追い出してくれるようです。 アカゲラが営巣にしたと思われる樹洞がたくさんあり,お下がりをゴジュウカラやニュウナイスズメなどが入口を改良して拝借しています。アカゲラは冬になると町の方にもよくやって来て脂身をつついています。赤,白,黒のコントラストが美しいこの鳥は大変人気があります。 アイヌ民話に次のような言い伝えがあります。 アカゲラはあまり人を恐れず近くまで来てはトントンとつついている。小さいころ畑仕事に親に連れられて行くとよく見かけた。あまりにも鮮やかな色の鳥だから父に「きれいな着物を着ているからうらやましい」というと,父は「鳥が着物を着るものか」といっていつも笑われた。また,この鳥をむやみに獲ったり殺したりするものではない。もしこの鳥を殺した男がいたらその男は着るものに恵まれないで一生ぼろぼろの着物しか着られなくなる。 ヤマゲラがピョービョーと大きな声を繰り返しながら飛んで行きます。数は多くありませんがクマゲラの声を聞いた人にたびたび出会います。 細い枝にはコゲラが集まります。この鳥も人を警戒しないので,すぐそばで観察することができます。
(4)氷上のダイサギ 15年初冬,ポロト近くに住む方から「白いサギが来ている」と電話があり,カメラをもって出かけました。以後時間を見つけて観察を続けるが,なかなか警戒心が強い鳥で近づくことができません。1月中旬には段々慣れ2,3人にカメラを向けられながらもハンノキのてっぺんから逃げようとしません。ボロトでは氷の上にアオサギと並んで2羽が休んでいました。アオサギの方が体が大きいはずですが,並んでいるとダイサギが大きく見えます。 12月初旬には多いときで7羽いましたが,氷面積が増すにつれて3羽,2羽,1羽と少なくなって来ました。1月中旬になると結氷が広がり見る機会が少なくなりました。全面結氷した18日には南の川で2羽見ることができました。昨年の例から考えると白老で越冬するものと思われます。 サギ科は開発によってどんどん営巣地を奪われ,数を減らしていますが,ポロトー帯や白老町にはたくさん集まって来ます。アオサギは冬期間も20~30羽います。ただし夏期間と冬期間が同じ個体なのかどうかは未確認です。 ヨコスト湿原は温泉の湯が少し流入するので冬も暖かく,魚も多いのでサギ科を初め野鳥たちの食料基地です。ポロト湖が全面結氷するとここにやって来て食事をし,ポロト湖で休息,羽繕いをし,夜はポント沼で休んでいます。 アマサギも多いときで7羽確認されています。若葉のころにやって来る夏鳥ですが,繁殖は確認されていません。あまり長く滞在していないようです。白老牛の放牧地があちこちにあり,アマサギは黒牛の後をついて歩き牛が追い立てた昆虫をいただいています。見ていると,白と黒の動きのあるコントラストがおもしろい。牧場の方の話では,背中に乗っかって虫をとることもあるようですが,牛は全く気にしないどころか,うるさい虫を取ったり追い払ったりするのでありがたい存在のようです。 記録によればチュウサギもいるようです。 10年ほど前から苫小牧-白老に定住し,営巣もしているカササギが町の人の話題になります。特徴のある大きい姿,変わった鳴き声,10羽前後の群れを作って行動し目立ちます。名前から「サギの仲間ですか」と聞かれることがありますが,カラス科です。 (5)年中無休,カラ類 1月の暖かい日,森を歩いていると笹の中からカサカサと音がします。何か小動物が動き回るような感じで,あちこちから聞こえて来ます。じっと目をこらして見ると,ハシブトガラです。何かを見つけて食べているのでしょう。 笹の中にからまっているヤマブドウの葉をつついているのが見えました。何が食料になるのでしょう。ブドウの実でも残っていたのでしょうか。 丸まったブドウの葉を採って開いて見ました。中から出て来たのはクモです。じっと身を縮めて動きません。冬眠中なのでしょう。 カラ類やエナガ,キクイタグキ,キバシリなどの小さな鳥が微細な虫,虫卵やサナギの隠れ家を見つけ,採食してくれるので虫による森林被害が少なくてすむのです。 湖畔はハンノキが多い。小さな種が雪の上にばらばら降っています。ここにはカラ類やエナガが混群を作って採餌します。マヒワの群れが集まって来ます。 カラマツ人工林もあり,小さな鳥たちは冬の食料に恵まれています。シジュウカラは1月の寒い森でツピーツツピーとさえずって春を感じさせます。 4 野鳥たちの「ふるさと2000年の森」へ (1)ウツナイ川 湖からの流水はポロト湖畔低湿地帯を通り,海岸近くで潤沢なヨコスト湿原を形成し,太平洋に流れます。ヨコスト湿原は近年乾燥化が著しく,動植物の生息に大きな影響を与えています。 (2)多様な樹木 天然林は高木・中木・低木が階層構造を作り,つる植物がからみ,地表には林床植物が生えています。実のなる木もたくさんあります。 ミヤマホオジロが草の種をついばみにやってきます。ちょっと草をかき分け見ると簡単にクモや昆虫を見つけることができます。エゾリスやカケスの食料貯蔵庫になっているようで春になるとミズナラの芽が出て来ます。 前述のように,森の鳥が多いのは各種類に対応した多様な樹木などが織りなす豊かな環境のお陰です。 (3)生き物たちの湖畔 水辺にはハンノキやヨシ群落があり,湖岸の植物は昆虫,魚類,藻類,微生物などの生き物と共生しています。 おわりに 最近,ポロトのよさを学び,多くの人々に伝えようという団体が作られ活動をしていることはうれしい事です。 ・白老水と緑のネットワーク 白老町は町民ぐるみで「ふるさと2000年の森」を守り育てて行こうとしています。 (平成16年3月発行「北海道野鳥だより」135号から転載。) < 地図製作:高橋良直 >
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